eCPR とはどのようなもので、どのように機能するのでしょうか
院外心停止(OHCA)患者の生存率は低く、心停止から介入までの時間が長くなるにつれて生存率は低下します [1]。OHCA 患者の死亡率は世界的に約 90% と推定され[1]、生存した患者もしばしば神経障害を経験します。近年の無作為ランダム化比較試験 [12][14] では、eCPR(体外式心肺蘇生法)は、特定の OHCA患者の臨床転帰を良好にする可能性があることが示唆されています。主要施設の積極的な取り組みにより、この救命治療がより多くの患者に提供されつつあります。
eCPR は、心停止患者に対してVA-ECMOサポートを行います。このシステムは、血液を脱血しガス交換を行った後、酸素化された血液を動脈に戻して循環動態を維持します。この技術は、米国心臓協会(AHA)[2] や ELSO(Extracorporeal Life Support Organization)[3] のガイドラインで推奨されています。VA-ECMO を患者に装着することで、心不全の際に迅速な血行動態サポートが可能になります。
eCPR による心停止の処置 [4]
モバイル eCPR は早期介入をサポート
eCPR は通常病院内で行われますが、OHCA は一刻を争う状況で行われるため、一部の病院では、心停止から介入までの時間を最短にするためプログラムを最適化しています。これには、救急隊員との密な連携、高度な訓練を受けたチームによる迅速な対応、そして場合によっては病院外での導入が含まれます。
よく知られている例が、米国ミネソタ大学のチームが開発した「モバイル ECMO トラック」です [5]。このモバイル ECMO トラックと ECMO チームは、病院までの搬送途中で患者の対応をします。カニュレーションまでの時間を短縮することでチームは対応エリアを拡大し、より多くの患者にこの治療を提供することができました。
ヨーロッパでは、早期 eCPR で患者を治療するプログラムもあります。Dinis Reis Miranda 博士が率いる ON-SCENE trial では、4機の医療用ヘリコプターをベースにした医療チームが、病院外eCPRをオランダ全土に導入しています [6][7]。各チームにはゲティンゲの Cardiohelp システムが装備され、OHCA 患者の早期治療を可能にしています。このトライアルでは、20 分以内に心肺蘇生法(CPR)に反応しなかった患者に VA-ECMO(静脈脱血-動脈送血) を導入しています。2022 年から始まった 3 年間のトライアルで、ECMO 群の患者 200 人のうち 30% を救うことを目標としています [8]。
ON-SCENE trial の医療チームが病院外 eCPR をオランダに導入
フランス・パリ都市圏では、移動式集中治療ユニットが長年にわたりOHCA 患者の治療に ECMO と eCPR を使用してきました。Lionel Lamhaut 博士のチームは、2011 年から 2015 年まで移動式集中治療ユニットの臨床成績データを追跡調査しました。彼らの研究では、156 人の患者が eCPR で治療されたことが確認されました。このデータからはどのような種類の早期介入でも生存率が向上することを示唆していますが、より積極的な eCPR 戦略は難治性の OHCA 患者の生存率を 3% から 38% までに上昇させました。[9]
eCPR の使用を支持する臨床研究
観察的研究 [10][11] では、特定の患者において従来の CPR と比較して eCPR により生存率が上昇することが示唆されていますが、最近発表された無作為ランダム化比較試験により、より確実な結果が得られています。
ミネアポリス(米国)のミネソタ大学のチームによって行われた「ARREST」単一施設無作為ランダム化比較試験(2020) [12] では、慎重に選択された OHCA 患者において eCPR が生存率を改善することが裏付けられました。ARREST は、OHCA 患者において VA-ECMO(静脈脱血-動脈送血)による生存率の向上が裏付けられた最初の eCPR ランダム化試験でした。難治性心室細動(VF)または無脈性心室頻拍(VT)を有する 30 名の OHCA 患者が、機械的 CPR のもと病院に搬送されました。その後、カテーテル室で ECMO を開始する eCPR 群と標準的な二次心肺蘇生法(ACLS)を適用する対照群に無作為に割り当てられました。eCPR 群では 43% の患者が退院まで生存したのに対し、ACLS 群では 7% でした。この試験では eCPR 群の成績が優れていたため、事前に計画された最初の中間解析で30人の患者を対象に終了しました。
ARREST 試験で実施された心停止時のモバイルeCPR [13]
ARREST 試験における患者グループ分類
プラハ(チェコ共和国)で実施された別の試験において、Belohlavek ら(2022)[14] は、搬送、eCPR、およびその他の治療などの早期介入が180日後の OHCA患者の転帰が改善するか調べました。4,000 人以上の OHCA 患者が評価され、最終的に 264 人が選択基準を満たし、現場での標準的 ACLS プロトコルと高度で侵襲性のある手技を比較するランダム化試験に登録されました。
主解析では、侵襲的戦略群の 31.5%、標準的戦略群の 22.0% が 180 日まで生存し、良好な神経学的転帰を示しました。両群間の差は統計的に有意ではありませんでしたが(p = 0.09)、ECMO に有利な 9.5% という絶対差は有望なものでした。これらの結果は、事前に規定された無益性の停止規則と交差していました。
さらに、侵襲的戦略群は標準的戦略群に比べ30 日後の神経学的回復率が有意に優れていました(それぞれ 30.6% vs 18.2%、p = 0.02)。
研究成績(難治性 OHCA における eCPR)[14]
成績 | 侵襲群 (%) | 標準群 (%) | 絶対差(95% CI) | p 値 |
180日時点で神経学的障害が最小、もしくは全くない生存率 | 39 (31.5) | 29 (22) | 9.5 (-1.3-20.1) | 0.09 |
30日時点で神経学的障害が最小、もしくは全くない生存率 | 38 (30.6) | 24 (18.2) | 12.4 (1.9-22.7) | 0.02 |
30日後の心機能の回復 | 54 (43.5) | 45 (34.1) | 9.4 (-2.5-21) | 0.12 |
その結果、eCPRを含む侵襲的アプローチの有用性が示唆され、生存率およびCPC 1または 2 が 9.5% 改善されました。